「マイルスを聴こう」 マイルス・デイヴィス アンド・ミルト・ジャクソン ― 2007/12/04 22:38
9月と10月に『ユニバーサル JAZZ THE BEST Legendary 150』として、リバーサイド、プレステッジなどの名門レーベルの名盤150枚が一挙に発売されました。
今日はその中からマイルスの隠れた名演奏を。実は本アルバム、真実の「喧嘩セッション(笑)」でもあります。
中山康樹さんが翻訳された「マイルス・デイビス自叙伝(1)」を読むと、1955年はマイルスにとって激動の年であったことが分かります。
まず3月に、マイルスは前妻の扶養義務不履行の為ぶち込まれた刑務所で、師匠であるバードことチャーリー・パーカー(Charlie Parker)の死亡を知らされます。
麻薬中毒だったバードの死は、ジャズ界に衝撃を与えたようです。おかげで、麻薬をやめようとするジャズ・ミュージシャンが増えたとか。
そして7月には、第2回のニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演し、作曲者のセロニアス・モンクを含むオールスター・バンドで「ラウンド・ミッドナイト」を演奏。
その演奏を聴いたプロデューサーのジョージ・アバキャンにより、コロンビア・レコードと契約することとなります。
また同じく7月に、有名なライブスポットのカフェ・ボヘミアでキャノンボール・アダレイの演奏をいたく気に入り、いろいろとアドバスを与えていたようです。
・・・・そんなこんなで8月、プレステッジお得意のジャム・セッション風な本アルバムの録音となる訳です。
「ビバップ的なサウンドにしたい」という事から、アルトのジャッキー・マクリーンを含むバンドで臨むマイルスですが、そのマクリーンが、スタジオで問題を起こします。
録音当日麻薬でハイになっていたマクリーン、自作2曲の録音を終えたまでは良かったが、続く「Bitty Ditty」の録音中に突然癇癪を起こして帰ってしまいます。
前述の「自叙伝(1)」によると、何度も間違えるアート・テイラーに対し、マイルスが親切に教えてやった事に嫉妬したのが原因だとか。
つまり、「俺(ジャッキー)にはいつも強く当たるのに、なんでアートにはそんなに優しいんだ!」という事。
マイルスが「繊細ですぐ気に病んでしまうタイプ」であるアートに合わせて指導してしたのに、ジャッキーは気に入らなかったらしい(笑)。
まあ、麻薬中毒の人の行動は予測がつかない事が多く、特にハイになっている時は、感情の抑制が効かないらしいです。
録音当日までの背景は、この位にしましょう。それでは、演奏内容を簡単に。
1曲目、ゆったりしたテンポで演奏されるマクリーン作曲のブルース「Dr. Jackle」で、軽くウォーミング・アップ。
ミルトのソロに続くマイルスは他のミュージシャンが使うようなお手本みたいなブルース・ソロから、だんだん熱気をはらんだマイルスらしいソロを展開していきます。
次のマクリーンの短いながらも熱いソロを経てレイ・ブライアント、ミルトとソロ・リレーは進行していきます。
飛んで3曲目、ハードなアップテンポ・ナンバー「Minor March」では、ソロ一番手のマクリーンが大熱演。彼の辛口のソロを堪能出来ます。
ミルト、そして畳み掛けるようにハードなフレーズを次々と繰り出すマイルスのソロはお見事!の一言。
最後に登場するレイ・ブライアントのピアノもかなりハード。ホレス・シルバーみたいに、低音キーをガンガン叩いて演奏を盛り上げます。
2曲目、サド・ジョーンズ作曲の「Bitty Ditty」では、途中でマクリーンが抜けたせいかマイルスの演奏には覇気がありません。
何でドラムのアート・テイラーが何度も躓いたのかと思いながら演奏を聴くと、テーマ部のドラム・パターンはちょっと面倒みたいですね。
このテーマと連動したドラム・パターン、アート・ブレイキーお得意の叩き方なんですが、A・テイラーにはまだちと難しかったか。
全員の演奏は文句ないのですが、やはりジャッキー・マクリーンが途中で抜けたのが痛い。マクリーンのざらっとした音色のアルトが抜けたせいで、演奏の輪郭がボヤケていますね。
4曲目、レイ・ブライアントの優雅なオリジナル「Changes」は、今までの曲とは雰囲気が異なり、レイ・ブライアント・トリオにマイルスとミルト・ジャクソンがソロで参加しているみたいです。
レイ・ブライアントの作り出す優雅な雰囲気に乗って、マイルスもミルトも気持ちよさそうにソロを演奏しております。
ぼーっと聴いていると、レイのソロ部分なんか完全に、彼のトリオで録音した某有名アルバムそのまんま(笑)。つい、次の曲は「ゴールデン・イヤリング」か?と、勘違いしそう。
地味なんだけど昔から「アク」の強い人なんですね、レイ・ブライアント。
マイルスがヤンキー座りをしてる最悪なジャケットのせいか、話題になったと聞いた事がありません。
ホントこのアルバム、マイルス・デイヴィスの作品だ!とか思いながら聴いてはいけません(笑)。ジャッキーの行動のおかげで、しょんぼりしているマイルスに、過剰な期待は禁物です。
「マイルス、大丈夫だよ。お前の行動は間違ってないから」と、(心の中で)声を掛けてあげながら(笑)聴く、優しさがある人だけ、こっそりと聴いてみて下さい。案外良いですよ。
●Miles Davis And Milt Jackson Quintet/Sextet Prestige PRLP 7034
01. Dr. Jackle (Jackie McLean) * 8:54
02. Bitty Ditty (Thad Jones) 6:35
03. Minor March (Jackie McLean) * 8:16
04. Changes (Ray Bryant) 7:11
Miles Davis (tp) Jackie McLean (as -*) Milt Jackson (vib) Ray Bryant (p) Percy Heath (b) Art Taylor (ds)
Recorded on August 5, 1955 at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
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